枕草子より「上に候ふ御猫は、〜」の現代語訳
今回は枕草子(まくらのそうし)より第九段「上に候ふ御猫は~の現代語訳、及び解説を行います。
本文の解説に加え、枕草子を読む上でここで合わせて覚えて欲しい重要古文単語や枕草子の古典常識の解説も行います。 ぜひ最後まで何度もご覧下さい。
では、まず「枕草子」について簡単に紹介していきます。現代語訳のみご覧になりたい方は目次から原文・現代語訳を選択してください。
枕草子について
本来の読み方は「まくらそうし」とされ、呼び名は他にも存在します。(「枕草紙」、「枕冊子」、「枕双紙」、「清少納言記」、「清少納言抄」etc.)
作者:清 少納言(せいしょうなごんではなく(せい しょうなごんであることに注意して下さい)一条天皇の皇后(妻)である中宮定子に仕えました。
古典常識の項目に天皇の妻についてはまとめておくのでチェックして下さい。
成立期:平安時代 中期
ジャンル:随筆
主な構成:「類聚章段」(ものづくし)、「随想章段」(自然描写)、「回想章段」(中宮定子に仕えた日記)
その他の覚えておきたい情報:平仮名中心、源氏物語の「もののあはれ」に対し、「をかし」の世界を演出しています。
「もののあはれ」や「をかし」については本質的な理解は徐々にしていってもらえれば良いです。
枕草子の古典常識
天皇の妻について
天皇には複数の妻おり、妻にもそれぞれ位がありました。
位の高い順に中宮(一人)、女御、更衣といった具合です。さらにそれぞれの妻に付き人(女房)がいました。
冒頭で紹介した一条天皇の皇后である中宮定子の中宮はこの中宮のことです。本名藤原定子(ふじわらのていし)。
官位について
この時代には官位というものが存在しました。
貴族は一位から三位の上達部(かんだちめ)、四位から五位の殿上人(てんじゃうびと)、それから六位の地下(ぢげ)に分類されました。
名前にもある通り五位以上の殿上人以上のみ清涼殿(せいりょうでん)の殿上の間に昇殿することが許されていました。(清涼殿や殿上の間については基本知識である為説明は省く)
上達部は他に月客(げっかく)、月卿(げっけい)、公卿(くぎゃう)とも呼ばれ、殿上人は他に雲客(うんかく)、雲上人(うんじゃうびと)、堂上(どうじゃう)とも呼ばれ、地下は他に堂下(だうか)とも呼ばれました。
枕草子重要古典単語
「可愛がる」を表す古文単語
- ・かしづく
- ・かなしがる
- ・あはれがる
「馬鹿な者」を表す古文単語
- ・おこなるもの
- ・痴れ者(しれもの)
- ・あなづらはしきもの
枕草子の原文&現代語訳
今回行う現代語訳は枕草子の「上に候ふ御猫は、〜」である。
命婦のおとどとて、いみしうをかしければ、
一条天皇にお仕えする猫は、五位の、位階をいただいていて、
「命婦様」などと言って、たいそう可愛らしかったので、
端に出でて臥したるに、乳母の馬の命婦、
一条天皇は、大切に御養育になっているが、
(その命婦のおとどが)簀の子の所に出て、寝ていた時に、(その命婦のおとどの)「乳母」の馬の命婦は
ねぶりてゐたるを、おどすとて、
『なんとはしたないことよ。中にお入りなさい」と呼ぶのだが、日が当たっている所に
寝ているので、馬の命婦は、(寝ている命婦のおとどを)脅かそうとして、
痴れものは走りかかりたれば、おびえまどひて御簾の内に入りぬ。
『翁丸はどこにいるの。命婦様に噛みつけと言うと、(翁丸は)「本当か」と思って、
この愚か者は(命婦のおとどに)走りかかったので、(命婦のおとどは)怯えて慌てて御簾の中に入った。
朝餉の間に一条天皇がいらっしゃる時で、一条天皇はそれを御覧になって、ひどく驚きなさる。
一条天皇は猫を懐にお入れになって、殿上人たちをお呼びになると、蔵人の忠隆が参上したので、
集まりて狩りさわぐ。
一条天皇は、
「この翁丸(犬)を殴って懲らしめて、犬島にやってしまえ、今すぐ」とおっしゃるので、
殿上人たちは集まって、大騒ぎして犬を捕まえ出す。
と仰せらるれば、畏りて御前にもいでず。
一条天皇は、馬の命婦も責めて、「乳母を換えてしまおう。本当に心配だ」
とおっしゃるので、馬の命婦は恐縮して一条天皇のお側にも出ない。
雷までもひどく鳴り、雨もひどく降ってきたので、犬(翁丸)は、狩り出して、滝口の武士などを使って犬島に追いやってしまった。
以上枕草子の現代語訳でした。(個人的には一番かわいそうなのは犬の翁丸だと思います。)
以上枕草子より「上に候ふ御猫は、〜」の現代語訳でした。